五月待つ花橘の香をかげば
       昔の人の袖の香ぞする   
   
(五月になるのを待って咲く花橘の香りを
かぐと、昔の人が袖にたきしめていたお香
の香りがするよ)

 ここに出てくる「昔の人」は誰でしょうか?
と学生さんに聞いてみると、好きだった人、
つきあっていた人など、わりとすぐに核心に迫る答えが。
 昔の人=おじいちゃん、おばあちゃんを連想する人も
いるかなと予想していたのですが。

 
「伊勢物語」 六十段にも登場するこの歌、
プレイボーイ業平との恋に疲れて
「まめなる人」(まめ=真面目、誠実)のプロポーズを受け入れ
九州に嫁いでいった女性が、後年、宇佐八幡宮に
やってきた業平一行の宴席の接待につくと、
業平 にこの歌をささやかれる。

 五月待つ花橘の香をかげば
       昔の人の袖の香ぞする
(花橘のみずみずしく甘酸っぱい香りは
       私にとってはあなたそのものなのです 
           忘れていませんよ)

 この歌を聞き、動揺した女性は、その後出家してしまった
という。

 自分が心底夢中になって愛する人と、
自分を好きになってくれる人との
間で揺れ動いた女性。
 いったんは業平をあきらめたものの
また心が戻ってしまった女性に、共感できるし、同情した。
(理由もわからず、奥さんが出家してしまった「まめなる人」
もかわいそう) 

 罪な男、業平の命日は五月二十八日だ。