河童の恋する宿や夏の月  蕪村

この一句でも蕪村は、人以外のものとの
距離が近い人だったのか、と想像してしまう。

 新人作家折口真喜子さんの『踊る猫』は、
そんな与謝蕪村の句からイマジネーションを広げた
短篇集で、面白くその世界に入っていけた。

 娘の見合い相手の若侍に一目ぼれした庄屋の妻のゆきの
たましいが雪女と化す「雪」では、物の怪の怖さではなく、
自分の本当の気持ちに気づくゆきの葛藤と純粋さが
印象に残った。( 登場人物
*商売の目は確かだが、ゆきや娘には甘い
年の離れた夫、
*ゆきの美しさを受け継ぎそこに若さの強気の美を
加えた元気な娘、
そして
*いつも周りの人の幸せを考えて行動してきたゆき
*娘の元気な美しさよりも
 ゆきの優しさや気遣いに心惹かれる若侍(娘の見合い相手))

 恋するって、本当の自分に気づくこと。
そして、今までの自分を失うこと。
そのあたりが、もう少し説明的でなく、
情緒的に表現されていたら
もっとのめりこめそうな小説だと思った。

 少し甘くて線の弱い気もするが、それも含め
澄んだ筆だと感じた。

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「踊る猫」折口真喜子  光文社時代小説文庫
2017年2月
小説宝石新人賞受賞作 収録